<ライブ レビュー>

2002年1月23日(水)@江古田BUDDY

『音の触手』

 M'sNEXUS(エムズ・ネクサス)のライブがBUDDYで行われたのは、冬の空気の澄んだ夜。

 地下にある大抵のライブハウスは、階段の途中くらいから人や機器の放熱、タバコの煙や音合わせの震動やらがもうもうとたちのぼるなかに飲み込まれていく気がするのだけれど、地下にさらにもう一階に降りた会場の雰囲気はほどよい落ち着きでもって、開演を待っていた。

 賑々しい高円寺や渋谷辺りのライブハウスを居酒屋とするなら、今日は大人のバーに来た感じ。 椅子に腰をゆったり下ろし、お酒をなめつつ音楽の楽しみ方にも色々あることを思ったりもして。 かすかなライトと闇が混濁し、明るいのか暗いのかよくわからないステージに、電灯にスイッチを入れたようにひとりづつメンバーが現れて、空気が動きだした。

 まず耳に飛び込んできたのはドラムの音、平手打ちのように滑るパシパシの音ではなくて、ボディブロウ。けたたましくなくてずしりと太い。かぶさるベースの音も強い、弦の出す音ではないみたいだ。生のリズムの強い音。放たれた旋律に、また音の触手が伸びてきた。サックスってこんなに吹きまくる楽器だったっけ、超絶な勢いでもってかき鳴らされるギターとユニゾンし、音の塊りが絡み合い、変化してゆく。

 休憩をはさんで始まった第二部は、入間川がベースを電気チェロに持ち替えて現れた。音の強さはベースとかわりないことに驚愕。うねる音の波に感覚は揺れ、絡まる音の触手は体に届き響いてくる。ことばや歌をもたない分、饒舌な音。それにしても私は、彼らの音楽をあらわす言葉を持っていない。 ベースもドラムもギターもサックスもチェロも、楽器の音色を知ってはけれど、彼らが即興でそれぞれの音に触発されてつくりあげる、移ろいゆく塊みたいな音楽を知らなかったからだ。

 そういえば四つの音の絡まりが調和したとき、不思議な乗り物に乗ったような感じがした。 終演後に電車ではなく、普段は使わないバスで帰ったのはそのせいなのかもしれない。

( 文・田辺夕子)
前のページへ戻る ▲ページのトップへ戻る