赤目四十八瀧心中未遂

■このCDはくれぐれも静かにお聞きください
映画『赤目四十八瀧心中未遂』から生まれた、音楽の昆虫採集。 蝉、瀧、花火、足音などの音も音楽としてCDのためにリミックス。 映画に使用しなかったアウトテイクも収録。
■音楽 : 千野秀一
■ディレクション : 河内紀/プロデュース : 荒戸源次郎
全16曲。total time48:17

■Track List
01. クマゼミ 02. アサギマダラ序曲 03. オトシブミ遁走曲 04. 百足輪舞曲 05. シロスジカミキリ綺想曲  06. オニヤンマ変奏曲 07. 蜻蛉交尾狂詩曲 08. 治虫の子守唄 09. 班猫ブルース 10. マイマイカブリのラグタイム 11. ミヤマクワガタ葬送曲 12. オオミズアオ小夜曲 13. 連結蜻蛉舞踏曲 14. ウスバカゲロウ鎮魂曲 15. アサギマダラ追想曲 16. ヒグラシ

■[音の昆虫採集]
 荒戸源次郎は《場所》の人である。それは「どこでもないどこか」ではなく、「どこかにあったはず」の場所だったのだが、なぜかわれわれの眼から見えなくなっている場所なのだ。赤目四十八瀧のことを言っているのではない。「イクシマはん」がはまりこんでしまった木造アパートのことを言っているのだ。落書きに囲まれた共同便所、ベニヤ板一枚の壁で仕切られた部屋。そこを「昔なつかしい」ノスタルジックな舞台にしようとしたのではないことは、部屋に置かれた大型冷蔵庫と、そのなかにしまわれた血まみれの臓物が証明する。たしかにここは、いまある《場所》なのだ。
 この《場所》(そして『ツイゴイネルワイゼン』、『陽炎座』、『夢二』に登場する場所の数々)をみつけた眼はどんな眼なのだろうか。
 あるいはそれは昆虫の眼ではなかったか。頭部には左右に離れた複眼、頭頂部には三角形に並んだ三個の単眼をもつ蝉の眼では・・・。

 蝉が鳴く、蝉が鳴く。
 卵(産卵器)の代わりに声(発音器)を与えられたオス蝉が鳴く。
 この蝉の声をたよりに、「どこかにあったはず」のどこかへと音の昆虫採集に出かけた。同行者は千野秀一さん。ふたりともコレクターではないが、「昆虫採集」ということばは好きだった。もっとも、私が子どもの頃に持っていたのは、映画のなかで少年が持っていたような虫取り網ではなく、先端に鳥糯を付けた細い竹の棒だった。チューインガムのような鳥糯をいかに薄く塗るかが難しかった。親指と人差し指で鳥糯をゆっくりと練りあげながら、砂や泥を軽くふりかけては粘着度を決める。それから、足音をしのばせ、気配を消しながら獲物に近づく。
 人の気配を「デッド」にした千野さんのスタジオで、こんな話をした。

―― 映画のサウンド・トラックを、シーン順に並べるのはやめましょう。
―― 結構。
―― 人間の声(せりふ)は「採集」不可能ですね。
―― 可能すぎて、不可能。
―― でも、《場所》のサウンドは聞きたい、つかまえたい。
―― 足音・・、かな。
―― うん。下駄が問題。
―― です、ね。

 蝉が鳴くとき、物音をたてると風の神が怒り嵐を呼ぶという伝説がある。
 くれぐれも、このCDは静かにお聞きください。

河内 紀

■千野秀一 プロフィール
1970年から職業音楽家として活動。「ダウンタウン・ブギウギバンド」、「ワハハ」、「サカタオーケストラ」、「グランド・ゼロ」等多数のユニットに参加。80年代に入り映画、演劇、ダンスの伴奏音楽の作曲を手掛ける。90年代からはデジタルソースを使った極私的かつ実験的な作品の制作や音楽用ソフトウェアの開発を行う。映画では、『ヒポクラテスたち』(大森一樹監督)、『風の歌を聴け』(大森一樹監督)など、舞台では舞踏集団・大駱駝艦の大半の作品など、多数の作品を手掛ける。

■『赤目四十八瀧心中未遂』レコーディング・データ
【作曲&音響構成】千野秀一
【演奏】千野秀一(シンセサイザー,サンプラーetc.)
【ゲスト・ミュージシャン】春日“Hachi”博文(チャンゴ,スネア,チン)/斎藤徹(コントラバス,チン)/今井和雄(アコースティック・ギター,チン)/内橋和久(エレクトリック・ギター)/大熊ワタル(クラリネット,チン)

千野秀一オフィシャルサイト ■映画『赤目四十八瀧心中未遂』オフィシャルサイト
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