DEEP SEIJUN

鈴木清順監督“浪漫三部作”のサウンドとリズム
鈴木清順映画の浪漫三部作といわれる『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』『夢二』で使用された映画音楽のおいしいところをコンパイル。サラサーテが1904年に自ら演奏、本人の謎の肉声も録音されているという「ツィゴイネルワイゼン」、 詩人・竹久夢二の代表作「宵待草」(歌唱・淡谷のり子)、松田優作、原田芳雄、麿赤児らの劇中歌などの他、 宝塚歌劇団でトップを極めた毬谷友子が唄う竹久夢二の世界も特別収録!!

■Track List
1. ツィゴイネルワイゼン(作曲:パブロ・デ・サラサーテ) 2. 骨のテーマ(作曲:河内紀) 3. 数え唄(盲目の旅芸人の歌) 4. 春の唄(作詞:野口雨情 作曲:草川信) 5. 狐の穴の中(作曲:河内紀) 6. 中砂の歌(作曲:河内紀) 7. 陽炎座のテーマ(作曲:河内紀) 8. 三度目の偶然(作曲:河内紀) 9. 葬列 10. 夜ン掘り 11. 和田のテーマ 12. 麗人の唄(作詞:サトウハチロー 作曲:堀内敬三) 13. 背中あわせの松崎と品子 14. 陽炎座のワルツ 15. カフェ宵待草(作曲:外山喜雄) 16. 十五夜の晩に(しょっぱいな節) 17. 蘭燈(作詞:竹久夢二 作曲:本居長世) 18. 別 れし宵(作詞:竹久夢二 作曲:本居長世) 19. なみだ(作詞:竹久夢二 作曲:山田耕筰) 20. 宵待草(作詞:竹久夢二 作曲:多忠亮)

■越境者たちの音楽 文・河内紀
力のある映像には音楽など必要ない、特に清順さんの映画には――。
 
  音楽を「まぶす」ことによって、観客の眼は甘くなり「ノセ」られやすくなるのは確かだが、清順監督の映画は「ノセ」るためではなく「見セル」ために作られている。たとえ「ノセ」たとしても、行き着く場所はもともとどこにも用意されてはいないのだ。
 
  清順映画の“大正三部作”に音楽監督(サウンド・ディレクター)として参加した主な動機はそこにあった。音楽がいらない監督の映画の音楽をどう作ればよいのか、それを考える楽しさ、難しさ、おもしろさ。  『ツィゴイネルワイゼン』の場合は答えは明快だった。音楽として存在するのは、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」一曲、それ以外の音楽が入り込むすきまはなかった。入り込めるとすればジプシー・メロディーをアレンジした「ツィゴイネルワイゼン」の曲の内容を補足、あるいは同等の内容を持つものでしかない。
 
  こうして、選ばれたのが盲目の旅芸人たちの歌。歌の文句は当時健在だった幇間・桜川善平さんを訪ね教えていただいたなかから選んだ。今回未収録だが、盲目の旅芸人たちの門付けのシーンで登場する琉球舞踊で使うカスタネット「四ツ竹」を指導したのは、妙子役を演じている沖縄生まれの真喜志きさ子さんだった。  『陽炎座』にも「音楽」が最初から存在していた。陽炎のようにゆらゆらと立ちのぼり、風に乗って聞こえてくる田舎芝居の太鼓の音。太鼓のリズム=「陽炎座」となると、ここで必要なのは太鼓ではなく笛の音色。というわけで和笛と洋笛を選び、即興で幾つかパターンを演奏して貰い、それを何度か重ねあわせて「陽炎座のテーマ」を作った。アコーデオンも笛と同じリード楽器ということで選んだ。そして、ラストシーンで津軽の獅子舞を使い、そこで初めて笛と太鼓のリズムを合致させた。
 
  『夢二』は、もちろん「宵待草」となるのだが、これはエンドロールのためにとっておくことにして、ニューオリンズ・ジャズの即興演奏を使うことにした。大正という時代性と夢二の絵画がもつエキゾティシズムとのイメージ合わせ。ゆらゆらと揺れているような、どこにもキッチリとおさまりきらない感性は、夢二にも、清順さんにも共通 するものだ。
  それはまた、三作品を通じて響かせたサウンドにもつながっている。
  さまざまなジャンルのサウンド[琵琶、三味線、鼓、アフリカン・パーカッション・・・]それぞれが越境しつつ混在する、映像を「ノセ」ない映画音楽。
  音楽のいらない清順映画の音楽は、こうして、指揮棒も振れず楽譜も読めない、ジャンルを越境した「音楽監督」によって作られてしまったのだった。(ライナーノーツより)

■河内紀 プロフィール
テレビ・ドキュメンタリー作家。1940年東京生れ。早大在学中に大和屋竺や田中陽造らと「稲門シナリオ研究会」に属し、記録映画をつくる。62年、TBS入社。ラジオ、テレビのディレクターを務めるが、宍戸錠主演のラジオ番組「ヤング・パンチ」シリーズに、鈴木清順をはじめとする具流八郎グループを起用して話題となる。74年TBS退社後、一時、著作活動に専念、『ベニヤの学校―戦後教育を掘る』(晶文社刊)、『日本童謡集』(共著/音楽之友社刊)等を発表。脚本「幻の東京オリンピック」で芸術大賞。映画にはTBS在職中も大和屋竺作品や若松プロ作品に関わり、鈴木清順作品では、『ツィゴイネルワイゼン』(80年)、『陽炎座』(81年)、『夢二』(91年)に音楽監督として参画する。

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