時々だ。時々。
自分が危うい、ブラックホールのような、闇、闇の中に吸い込まれていくかも、という不安におそわれる。
そこに行くと、もう、自分は人間でなくなってしまう。
今、自分が座っているアパートの部屋のまん中でも、すぐにその場所に行けてしまうかもしれない。
そして、そこで、音を鳴らしたら、僕はもう、やることが本当になくなってしまう。

このアルバム『人体実験』は、その場所に背を向けて作った。
180度、背を向けて。
ブラックホールから背を向けて。

感じたい 感じたい 感じたい
歌うから
歌うから
疑うから
(「人体実験」より)

2月7日の午後。
池袋で仕事の合間に、ふと、友人とストリップに入った。ミカド劇場。
薄暗く、狭い劇場にはお客さんは12人。舞台の上のモニターにビデオが流れ、客席で外人ストリッパーがお客さんにポラロイド・サービスをしていた。
自動販売機で、コーラを買い、席に着く。
次の踊子さんのショウが始まる。花みずき、という背が高く黒髪が長く、綺麗な踊子さん。
目の前で艶やかな光の中の裸体を眺めながら、普段ならどうでもいい歌謡曲が心に染み、その踊子さんと目が合って、なぜか懐かしくなり、胸が詰まった。

ロボットの女に会った
僕達は仲良くなった
話はあまり出来なかった
(「ロボットの女」より)

電車に乗れば、山手線に乗れば、どれだけの人間とすれ違うのだろう。
生きている間に僕達は、どれだけの人間と心を通わせることが出来るのだろう。

「今度、新しいアルバム出んねん」
「おお、久しぶりやん! 買うわ、幾ら?」
「えーと、2800円。消費税入れると、2940円。まあ3千円やな」
「ああ、ちょっと高いな。買えたら買うわ」
「悪いな。買えたら、買ってや」

日本に生まれて良かった 神様がいないから
この国に生まれて良かった 何でも好きなことが出来るやれるから
(「日本に生まれて良かった」より)

いつだったか、6月の夜だった。
週末、最終電車で新宿に出て、映画でも見ようと思ったのだが、結局見ないで街をうろうろして、朝まで過ごしたことがあった。
なぜかひとりでも元気で、眠くなったり、しゃがみこんだりしなかった。珍しい。
あの時、このアルバムがあったら僕はCDウォークマンで聞いている。
ひとりでいる時、でも、ちょっと陽気な気分にもなれるひとりの夜。

夜のラヴ ちょっと笑った
夜のラヴ ちょっと笑って
(「夜のラブ」より)

春からライブツアーやります。
また、会いましょう。
元気で。

2003.2 豊田道倫
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