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プリクル - ミニシアターファンマガジン

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もぞもぞ日記

20080304

タイトルに惹かれて出かける。譜めくりって、禁欲的でそそられますね。主人公の譜めくりの女のなーんとも暗い面持ちが強烈。あとで解説を読むと、『ある子供』のあの少女だった。いつも暗い顔だ。衣装がとてもよくて、フランスのセレブな人の普段着を堪能。画面で観ていても肌触りの良さが伝わってくる。この話を川端康成が書いていたら、シャブロルが撮っていたらどんなふうだろうか。もっと性悪な女に描いただろうか。

『LA TOURNEUSE DE PAGES』監督:ドゥニ・デルクール/出演:カトリーヌ・フロ、デボラ・フランソワ/4月19日~シネスイッチ銀座、渋谷シネ・アミューズにてロードショー
http://piano.cinemacafe.net/

20080221

アントン・シガー(ハビエル・バルデム)はあまりに強烈なヴィジュアルの殺人鬼で映画史に残りそうです。これからおかっぱが流行るに違いない。ボブじゃなくておかっぱ。にしてもこの人が強すぎて、ゾンビかロボコップを観ているような気になってくる。
ゾンビと無口なタフガイが出て来る西部が舞台のアクション映画とトミー・リー・ジョーンズが出て来る映画の3本が1本になったみたいな不思議な味わい。

『NO COUNTRY FOR OLD MEN』監督・脚本 : ジョエル・コーエン 、 イーサン・コーエン/出演 : トミー・リー・ジョーンズ 、 ハビエル・バルデム 、 ジョシュ・ブローリン 、 ケリー・マクドナルド、ウディ・ハレルソン/122分/3月22日~TOHOシネマズ六本木ヒルズ他ロードショー
http://www.nocountry.jp/

20080214

2時間38分の上映時間と寒さにひるんで直前までぐずぐず迷う。しかしここでムチ打たないとまたダメの泥沼に沈みこみそうなので意を決す。シネスコに荒れ地が映し出され、ダニエル・デイ・ルイスが硬い大地を掘り、爆破し、穴の底から原油を引き上げる、その労働のハンパない重さにゾッとさせられ筋肉が緊張する。まさに爪の先から全身、土やどろり黒い液体に覆われた男たちのむせかえるにおいが漂ってくる。石油に対する異様な執着も息子に対する過剰な思いもその根を詳細に物語るようなことはしない。息子の頭をなでるダニエルの手つきを見ればいいのだ。息子の幼少期の回想シーンが、ほんとになんでもない日常的な情景で、それだからこそ堪らなくなり号泣。われながらわかりやすい……。
巨万の富を得てアル中に堕ちるとは自滅の王道だが、そもそもニンゲンはそのようにできている、それが自明の理だと改めて言い渡されたような気がした。観ている途中、「人生は長い」というフレーズが頭の中でリフレイン。
ダニエルはよく寝るべきでない場所で寝込んでいる。そして人に起こされる。それは何を意味するのだろう。顔、顔、顔。どの顔も異様に存在感がある。黒い男たちと対象的に白くて下ぶくれの偽預言者の顔。「イーライ」という名がはじめてその兄の口から呟かれた瞬間から、緊張がはしった。
なによりも、あんな映画を撮りあげてしまう情熱に、志の高さに心底感動する。涙が出た。ひれ伏す思いだ。ブラームスのヴァイオリン協奏曲が大袈裟でピッタリ!

『There Will Be Blood』監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン/オリジナル音楽:ジョニー・グリーンウッド(レディオヘッド)/出演:ダニエル・デイ=ルイス、ポール・ダノ/158分/4月26日~日比谷・シャンテシネにてロードショー
http://www.movies.co.jp/therewillbeblood/

20080207

完成披露試写会の大盛況の会場で橋口亮輔監督が舞台に立った。『ハッシュ!』のあとうつ病でつらい思いをされたという。そうした旋回の時間も必要だったと、橋口監督ならではのユーモアとともに語った。
週3回のお務めを義務化してカレンダーに印をつけバナナを食べながら帰宅の遅い夫に文句をつける妻に「おもてなしのこころというものをもちなさい」と諭す夫役のリリー・フランキーのセリフまわしが寅さんぽくて可笑しい。リリーさんが嫁の家族といる場面の借りてきた猫感、はっきりと居心地が悪いというのともちょっと違う、ただぽつんといる、作り笑いでもない、でも心から笑ってるでもない、まさに微妙な存在感が不思議。結局、男のほうが人生たいへんそうだな、と思う。それにしても、よく“素のままの演技”みたいなことを言ったり思ったりしてしまうのだが、それってそもそも何なんだろう、とか考えた。安藤玉恵さん、相変わらず素晴らしい。倍賞美津子さんを久しぶりにスクリーンで見れてうれしい。

『ぐるりのこと。』原作・脚本・編集・監督:橋口亮輔/企画・製作:山上徹二郎/出演:木村多江、リリー・フランキー、倍賞美津子、寺島進、安藤玉恵/140分/初夏、シネマライズ、シネスイッチ銀座にてロードショー
http://www.gururinokoto.jp/

20080111

プリクルで連載をお願いしていた万田邦敏監督の『接吻』をこそこそとまた観に行く。そしてまた小池栄子の白磁のような白目に吸い込まれる。左きき独特の不自然な姿勢で大学ノートに几帳面に文字を書き連ねるその姿が異様に目に残る。どこもかしこも微妙にいびつですわりが悪いから、何度観ても興奮するのか?
二度めなのにまた何度か身震いし、手に汗をかいた。小池栄子が拘置所の接見台の透明なアクリル板の前で、腕に顔を伏せてまどろむ!
アクリル板を挟んでそれを見る豊川悦司の無力……。小池栄子は手のひらをアクリル板に押しあてて、ちいさな穴をとおして自分の匂いを男に嗅がせる。そのための石鹸工場勤めなのだ!
なぜか檸檬石鹸の香りに違いないと確信する。今日こんなことがあったよと豊川に日々のできごとを報告するのだが、公園で久しぶりにブランコに乗っちゃったと話すとき、その肉体が躍動するイメージが肥大して画面が霞んでしまった……ああなんという倒錯……そしてラストのアクション!
やはり今回も瞳孔は開きっぱなしだ。
豊川悦司が高台の住宅街に向って急な階段をのぼっていくところから悲劇が始まるのだが、そういえば万田監督は『ヤマトナデシコ』のエロ教授役で女の子の家に行くために同じくらい急な階段をのぼっていたのを思い出した。

『接吻 Seppun』 監督・脚本:万田邦敏/脚本:万田珠美/出演:小池栄子、豊川悦司、仲村トオル、篠田三郎/108分/3月8日~渋谷・ユーロスペースにてロードショー
http://www.seppun-movie.com/

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