見つめる、つづく、生きてゆく





監督のホンマタカシは、現代の東京を代表する写真家として、広告、雑誌等で活躍し、1998年にはカラー写 真集「東京郊外 TOKYO SUBURBIA」(光琳社刊)で木村伊兵衛賞を受賞した。その名の通 り、東京の郊外の町並みや住宅、少年少女を撮影したそれらの写真は、どれもみな同じようにクリアーでフラットだ。叙情とか感傷が皆無なそれらの<風景>は、いまおそらく最も“リアル”な<風景>として、若い世代を中心に強い支持を集めている。

そのホンマタカシが今回監督としてカメラを向けたのが、伝説的な写真家、中平卓馬だった。

中平卓馬は60、70年代、各方面で新しい波が起こり始めていた頃、先鋭的な言葉と写 真によって、既存の写真表現を否定した。頭が良くて、鋭い言葉を最大の武器に、時代を挑発し、同時にリードし続けた、すごい写 真家だった。 1977年9月11日。 パーティーで酔いつぶれた中平卓馬は、昏睡状態になった。 その後意識を回復したそのとき、過去の記憶をいっさい失っていた。

それから。
ふたたび写真を撮り始めた中平卓馬は、1983年に写真集「新たなる凝視」を刊行する。そして昨年、横浜美術館にて、初の本格的な個展「原点復帰ム横浜」をおこなった。

過去を失ったことにより揺らいでゆく「いま」。 中平卓馬の「現在」。 一見穏やかに見えながらも、一日一日をかろうじて繋いでゆくようなその生活を、ホンマタカシは静かに静かに、見つめてゆく。




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