ケンサクはその町のホテルで働いている。 ナイトフロントのアルバイト。太陽が昇る時間に帰宅する生活。「ただいま」の挨拶も随分していない。 彼を待っているのは意識の無い老人だけ。ケンサクは三年以上、自分の父親か判然としないこの老人の世話をして過ごしてきた。 ミカは毎年、夏にやってくる。親戚のジイさんのガソリンスタンドを手伝い、趣味の写真を撮る。ケンサクと会うのも一年ぶり。 ケンサクとは去年、付き合っていたが、今年、ミカにその気は無かった。ミカはこの町で新しい恋人と待ち合わせをしていた。 バスからユカが降りてくる。西伊豆町に一人で訪れたユカ。失恋の痛手から逃れるように。 ホテルでケンサクと出会い、お互いの崩れたバランスを支えあうように関係する。 やがてユカは、恋人から待ちぼうけをくらっているミカと偶然出会い、いつしかミカの家で暮らし始める。 ケンサクを含めた三人の間に流れる微妙な空気は常に乾いていた。 静かな海辺の街で三人の暮らしは淡々と進み、まるで凪いでいる海のように穏やかに、時は過ぎていった。 タツは東京にいた。借金で首が回らなくなったタツは、幼馴染みのケンサクがいる西伊豆町にやってくる。 軽薄なノリのタツは三人の関係に無邪気に入りこみ、均衡がとれていた彼らのバランスは徐々に崩れていく。
そしてタツの暴走が始まる。現金輸送車の襲撃。
唯一、止めることが出来るケンサクは実行寸前のタツの前に姿を現すが……。
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