イントロダクション

監督/奥原浩志 
水面が微かに持ち上がり、そのうねりは次第に大きさを増し、
ぎりぎり可能な限り膨らんで、ある一点に達したとき、それは荒々しく様相を変え、崩れ落ち、
その惰力でもって出来る限り遠くへ達しようとした後は、
自らでは決して変えることの出来ない力によって元いた場所へと引き戻される。
波の運動は、映画の中の彼らの姿によく似ているのだと僕は思います。

物語 晩夏、西伊豆、静謐な町――

 
ケンサクはその町のホテルで働いている。
ナイトフロントのアルバイト。太陽が昇る時間に帰宅する生活。「ただいま」の挨拶も随分していない。
彼を待っているのは意識の無い老人だけ。ケンサクは三年以上、自分の父親か判然としないこの老人の世話をして過ごしてきた。
ミカは毎年、夏にやってくる。親戚のジイさんのガソリンスタンドを手伝い、趣味の写真を撮る。ケンサクと会うのも一年ぶり。
ケンサクとは去年、付き合っていたが、今年、ミカにその気は無かった。ミカはこの町で新しい恋人と待ち合わせをしていた。
バスからユカが降りてくる。西伊豆町に一人で訪れたユカ。失恋の痛手から逃れるように。
ホテルでケンサクと出会い、お互いの崩れたバランスを支えあうように関係する。
やがてユカは、恋人から待ちぼうけをくらっているミカと偶然出会い、いつしかミカの家で暮らし始める。
ケンサクを含めた三人の間に流れる微妙な空気は常に乾いていた。
静かな海辺の街で三人の暮らしは淡々と進み、まるで凪いでいる海のように穏やかに、時は過ぎていった。
タツは東京にいた。借金で首が回らなくなったタツは、幼馴染みのケンサクがいる西伊豆町にやってくる。
軽薄なノリのタツは三人の関係に無邪気に入りこみ、均衡がとれていた彼らのバランスは徐々に崩れていく。 そしてタツの暴走が始まる。現金輸送車の襲撃。 唯一、止めることが出来るケンサクは実行寸前のタツの前に姿を現すが……。



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