熱くて軽いプロデューサー座談会
『波』は奇跡を起こせるか!? の巻
お話=渡辺謙作&大森立嗣
 
渡辺謙作(以下、K)「いやー、しかしびっくりだよ」
大森立嗣(以下、T)「何が?」
K「試写だよ、『波』の」
T「ああー、すごい評判いいね」
K「俺、心配だったわけよ。黙殺されたらどうしようって。でも試写会はほとんど満員じゃない?」
T「だな」
K「どうしてだろ?」
T「俺の見たところ奥原人気だな」
K「奥原人気!? そんなのあるのか?」
T「おう。あるんだよ」
K「へえ……みんな奥原の何がいいんだろ?」
T「そんなの顔に決まってるだろ。ジョン・タトゥーロ(注1)みたいな顔」

―今回の『波』はどういった経緯で撮ることになったんですか?


K「はじまりは俺もよく知らないんだよね。立嗣に聞いてくれ」
T「うーんとね。去年の夏、仲間内で西伊豆に家でも借りて遊ぼうって話が持ち上がったわけ。 それで西伊豆まで行ったんだよ。家をさがしに。そしたら奥原が町の雰囲気をいたく気にいっちゃってさ、 いきなり『ここで映画を撮りたい』とか言い出したんだよ。でもそんなの無視してたんだ。だって遊べない じゃん。映画なんて始めたら」
K「遊べねえよなあ」
T「だけどさ、奥原が『撮りたい…撮りたい…撮りたい…』って呪文のように呟くわけ。それで、『しょうがねえなあ。じゃあ、俺がプロデューサーやってやるよ』って 言っちゃって。そしたら何故か謙作もプロデューサーをやるって言い出してさ」
K「それはさあ、お前がやるって聞いて、俺もやりたくなっちゃったんだ」
T「ホモじゃねえんだからよお」
K「うふふ……でも真面目な話、最初は自主製作で作るつもりだったんだろ?」
T「うん。奥原もビデオで撮るつもりだったみたい」
K「俺は、それじゃ、奥原にとって良くないと思ったんだ。せっかく『タイムレス メロディ』で商業映画デビューしたのに、 『また自主製作映画を撮りました』じゃ、もったいないじゃん」
T「まあね」
K「だって自主製作規模じゃ、作りたいものが作れないから、商業映画のラインに乗ったわけでしょ?」
T「それは本人に聞いてみないとわからないなあ」
K「うーん、でも自主製作で映画を作った人も出来上がってから商業ラインにのせようとするじゃない? だったら俺は最初から商業映画を目指すべきだと思ったんだよね」
T「なんか、謙作、今日は熱いな」
K「イメチェンしたんだよ。まあ俺は、作るからには必ず劇場で上映させようって思って参加したの。以上」
T「俺はつまらいことだけはしたくなかった。それで面白いことをやろうと思ったら、必然的に商業ベースにのせるってことになったんだよ。 それと、よく考えてみると『タイムレス メロディ』から1年が経ってさ、奥原的に次回作を撮らないといけないタイミングかな、っていうのはあったな」
K「あー、そうね。あいだを開けるのは良くないわな」
T「自分のこと言ってんだろ」
K「バッ、バ、バ、バッカ野郎!」
T「へへへ」

―まあまあ。スタッフやキャストに関しても教えて下さいよ。


T「現場スタッフはね、ほとんど友達だな。さっきの話じゃないけどさ、みんな『奥原、そろそろ映画、作った方がいい』って思ってたからね。 そういう奴らだけで始めようって最初に決めたんだよ」
K「それで集まったのが7人か」
T「普通の映画なら現場スタッフだけで30人はいるだろ。それがたった7人だから、今回相当ムチャクチャ」
K「一人二役、三役は当たり前って感じだったもんな」
T「7人でも映画は出来る!」
K「ずりーな。格好いい発言しちゃって」
T「早いもの勝ちだよ」
K「ちぇっ。後は何? キャスト? キャストはね……最初、知り合いの舞台俳優を主演に奥原は考えてたみたいなんだよ。 それがそいつのスケジュールが合わなくてさ……そしたら何故か俺だよ」
T「謙作、あっさり引き受けたよな」
K「立嗣ね、そういう事言っちゃ駄目だよ。確かにあっさり受けちゃったけどさ。大体、立嗣の役ができたのは俺のおかげなんだぜ」
T「そうだっけ?」
K「忘れてるよ、こいつ。はじめ奥原は、男1女2の話を考えてたんだよ。そこに俺が、『立嗣の役も作った方がいい』って提案したんだから」
T「そうだった。ありがてえな」
K「何、その軽い感じ。本当に心無えな」
T「そんなことねえぞ。話を戻すとさ、女の役二人に関して奥原は当初、素人ギャルにお願いしようと思ってたんだよ。 だけど謙作が『駄目。芝居の出来る人にしよう』って言ってさ」
K「……なんか、俺、口うるさいオッサンみてえ」
T「それが今回、良かったんじゃん」
K「中途半端なフォローされちった……」
T「……だからまた話を戻すけど、それで何人かの女優さんにお会いしたんだ。でも、その時は奥原の中にも確固たるものが出来てなかったみたいなんだよ。 でも小林麻子さん(ユカ役)と紺野千春さん(ミカ役)に会った時にビビビって来るものがあったみたいでさ」
K「確かにあの二人に会った後、奥原も興奮気味だったな。目とかウルウルさせちゃって」
T「してない。してない」
K「まあ、冗談はさておき、あの二人に出演してもらったことはこの映画にとって大きかったんじゃないかな。俺は大正解だったと思うよ」
T「同感だな」

―ですね。俳優さんはみんないい感じですね。それで撮影に入ったわけですけど。撮影中はどうでしたか?


K「撮影は去年の9月初めから三週間。ずっと西伊豆に行きっぱなしで、合宿生活だったんだよね」
T「俺たちはそういうの慣れてるけど、女優さんも含めた女の子たちは大変だったんじゃない?」
K「一応、女子寮はあったけど、プライバシーなんて上等なものは無かったからね。ほんと撮影に付き合ってくれた皆さんには感謝してると言うか、愛してると言うか」
T「こいつ、訳わかんねえ。だけどさ、俺、何回も合宿経験あるけど、今回のはそんなに悲惨な合宿じゃなかったよ」
K「そうね。飯も自炊が多かったけど、うまかったしな」
T「撮影中に知り合いの映画スタッフが何人も応援に来てくれてさ、現場手伝ってくれたり、自炊班をしてくれたりして、嬉しかったなあ」
K「うん。みんな愛してます」
T「謙作の愛は安いからなあ」
K「お前、そういうこと言って、また足を引っ張る。俺もそういうスタンス取っちゃうよ」
T「ごめん、ごめん」
K「えーと、脱線したな。撮影の話ね。準備期間中に立嗣が地元の町役場の全面 協力を取り付けてくれたから、ロケハンも撮影もすこぶる順調だったよな」
T「うん。江戸末期ぐらいに建てられた重要文化財に指定されそうな家屋とかも借りられたし、堂ヶ島臨海ホテルでの撮影もスムーズだったろ。ロケ場所は全部良かった」
K「後、小松観光ホテルの風呂を24時間無料で貸してもらってたじゃない。あれは最高だったよ」
T「地元のみなさんの協力には、本当に感謝してる」
K「うん。出演してもらったガソリンスタンドのおじいさんなんて抜群のキャラだったよな」
T「『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の主人公みたいだったぜ」
K「西伊豆は日本のキューバだ!」
T「すごい持ち上げようだな」

―それで去年の9月に撮影を終えて、完成したのはいつですか?


K「本当は年明けには完成させたかったんだけど、色々あって初号を迎えたのが5月1日だったかな」
T「今回、編集マンを立てなかった、と言うか立てられなかったから、その間、奥原には一人でねちねちと編集をやっててもらって」
K「ねちねちって副詞がまた奥原に似合うね」
T「うわっ、ひでえ。俺、奥原に言っちゃおう」
K「言っちゃおうって、これ書かれんじゃん」
T「そうだった」
K「まあ、でも奥原にねちねちやっててもらってる間、俺と立嗣は仕上げのスタッフをどうするか考えてたんだよ。普通 はそんなこと、撮影始める前に決めてるんだけど、 準備の頃はそんな余裕が無くってね」
T「音楽も最初どうするか決まってなかったんだよ。だけどダイジェスト版を奥原に作らせたときに、あいつがサンガツってバンドの曲を当ててきてさ。それがハマってたんだ」
K「俺もそろそろ新しい血を導入しなきゃいけねえな、とか思ってたし」
T「謙作、その頃、ずっとそんな事言ってたよね」
K「ウン、俺はね、知り合いばっかり集まってやるのは嫌だったんだよ。自主製作っぽくしたくなかったからさ。仲間内でやってると閉塞感が出てきてチームが緩むじゃん」
T「わかる、わかる。緊張感が無くなっちゃうし、見方が偏ってくるんだよな」
K「うん。それで全然、ツテもコネも無かったけど、音楽はサンガツにお願いしようって決めたんだよ」
T「そしたらサンガツの奴ら、俺たちと年も近くてさ、イイ奴らなんだ、これが。それに他の仕上げスタッフに関してもさ、 インディーズ系のスタッフからアカデミー賞取ってるメジャー系のスタッフまでが融合してさ、面 白かったよな」
K「俺はさ、自主製作が基礎の奥原に、俺たちが知っててあいつが知らない世界っていうのを見せて上げたかったんだよ。絶対いい経験になると思ってたからよ」
T「しかし、こうやってみると、俺たち、奥原の為にやってたって感じするな」
K「そうだよ。俺たち、優しいよな?」
T「最高に優しいぜ!」

―そんなこんなで完成したわけですが、お二人から見て『波』はどうですか?


K「お前、そんなこと聞くの? 決まってんだろ。傑作だよ、傑作!」
T「おう、もう一回言ってやれ!」
K「傑作!」
T「だけど真面目な話、『波』はよくできてるんじゃない?」
K「うん。手前味噌になるけど良いよ。実は俺『タイムレス……』はそんなに評価してないのよ。ただ映画に対する奥原の真摯な姿勢っていうのには好感が持てた。 『波』にも真摯な感じは出てるし」
T「奥原は登場人物の感情を最優先に考えて演出するんだよ。絶対、ストーリーや映像が先行したりしないだろ。それが徹底してるからさ、感情移入しやすいんだよ」
K「なるほどね。だから逆に話がわかりやすいんだ」
T「そう。物語の中に登場人物がいるんじゃなくて、登場人物が物語を引っ張っていくから、見てる方は楽なんだよ」
K「いっぱしの奥原評論家だな」
T「需要が無さそうな肩書きだな、おい」
K「そう言えば、撮影の評価が高いな」
T「奥原評論家から言わせてもらえれば、それはだね、自己主張しないで感情の流れを後押しするような絵だから、評価が高いんだよ。 撮影中にカメラマンもそこら辺は心掛けてたからね」
K「俺なんか、撮影中は絵にメリハリが無いかなあって心配してたんだけど、出来上がりを見てみたらそのメリハリの無さが逆にいいんだよな。奥原マジックって言うんですか?」
T「うん。俺たちが言うのもなんだけどさ、とにかくいい映画だよ。お前も言え!」

―はい。『波』はいい映画です! それで今後はどうなりますか?

K「知ってるくせに、そんなこと聞いて」
T「まあ、いいじゃん。7月31日から8月21日まで新宿シアタートップスで上映するんだよ」
K「トップスって言ったら、10年近く前、『三月のライオン』(注2)っていう映画が大ヒットしてさ、ちょっと時代が違うけど、それにあやかろうと思って」
T「そう言えばサンガツってバンド名はその『三月のライオン』から取ったらしいよ」
K「そうなんだ!?」
T「うん。当時、在籍していたメンバーが映画を見て感動してつけたんだって」
K「世界は繋がってるのね。なんか、妙な自信が湧いてきたな」
T「よし!! 俺達も『三月のライオン』のように奇跡を起こすか!」
K「けど、『奇跡は二度起こらない』って誰か言ってたぜ」
T「ウ〜ン………だな」
K「『だな』かよ!!」

(注1)ジョン・タトゥーロ
映画俳優。コーエン兄弟作品の常連で、『バートン・フィンク』の額に蚊の止まっている写 真は、奥原監督の生きうつし。
(注2)『三月のライオン』

91年、シアタートップスにて上映され、海外の映画祭でも注目を集めた話題作。監督・矢崎仁司。