Introduction
映画界にまたひとり、新たな才能があらわれた。
期待の女性新人監督、草野なつか。彼女の長編デビュー作品『螺旋銀河』はドイツ・フランクフルトで開催される欧州最大の日本映画祭、第14回ニッポン・コネクションで審査員賞を受賞。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2014では長編部門の監督賞とSKIPシティアワードをW受賞する快挙を成し遂げた。井口奈美やタナダユキ、横浜聡子、更には安藤桃子や山戸結希と、昨今女性監督の個性と活躍が並列的に語られがちな映画界において、草野なつかの作家的特質としては、シンプルで丹念な、ややもすれば王道的ともいえる語り口の「強さ」が挙げられるだろう。いかに目には見えない感情を映し出すか。その命題に向かう強度のある描写は未来の映画への確かな前進を感じさせ、著名な評論家や映画関係者の心を動かした。いち早く映画評を寄稿した方々を始め、配給を決意したリトルモア(『まほろ駅前』シリーズ、『舟を編む』)、そしてこれまでの上映で本作を見て頂いた観客の熱い声援により、ついに正式劇場公開が決定した。
綾と幸子。あなたが出会う二人の濃密な世界とは。
シナリオ学校に通う綾(石坂友里)の原稿が学校課題のラジオドラマに選ばれるが、共同執筆者を立てることが放送の条件だと言われる。嫌がる綾は、偶然言葉を交わした会社の同僚・幸子(澁谷麻美)のおとなしい性格に目をつけ、共同執筆者に仕立て上げようとする。地味な自分とは違う華やかな綾に憧れ近づきたいと思う幸子、美人だが自分本位な性格が災いして人間関係を構築できない綾。対照的な二人の関係による“ラジオドラマの共作”は、やがて彼女達を奇妙な空間へと誘うが…。現実と非現実の狭間に迷い込むような不可思議な体験。その珠玉のクライマックスが草野監督への期待と映画への喜びを感じずにはいられない、映画史に刻まれる73分の新たな1ページ。