この映画について


ストーリー
有島謙一(36)は、統合失調症をわずらう母、敏江(70)と二人で暮らしている。数年前から敏江は認知症を患い、その病いはゆるやかに進行しつつある。そんな日々の中、謙一は在宅介護を続けてきた。いつからか敏江は終日を床で過ごすようになり、無気力に毎日を送るようになっていた。謙一は、仕事と介護だけを繰り返すだけの生活を続けていく……。

「親」とは何なのか?
吉田光希監督は、本作の企画を考えた27歳のとき、ある想像が浮かんだといいます。今は「子」であるけれど、十年後は親になっているかもしれない、二十年後は介護する側かもしれない、五十年後は介護される側かもしれない、と。「親」とは何でしょうか? 自分以外の「個」という意味では他者でありながら、どうしても自分と切り離すことができない存在…。監督は、親と他者の境界について、自問を越えて、映画として発信することを選びました。それは、これから先の自分を想像することでもあり、きっと誰の映画にもなるだろうと信じていました。
吉田監督は、東京造形大学在学中に製作された本作でPFFアワード2008にて審査員特別賞を受賞。そして第20回PFFスカラシップの権利を獲得し、本作と同時期に公開される『家族X』を製作しました。

模索するような映像
ト書きとセリフを抑えた簡潔な脚本にする、シーンごとにディスカッションを行うなど、本作ではすこし変わった撮影方法がとられました。吉田監督は、あらかじめ決められたエピソードを再現するよりも、現場で生まれる変化を大切にしたといいます。それによって、制作側と出演者が、作品理解を共有し、謙一と敏江の関係、あるいは「親子」の関係を考えるように撮影がすすみました。模索するような映像に、見るものは、有島家の生活にいざなわれていきます。「あの母は、私を育てた母なのか?」「介護はいつまでつづくのか?」「この閉塞感を救うのはなんなのか?」「誰かが救ってはくれないのか?」そんな、疑問が浮かんでくるはずです。『症例X』は、私たちの生活に根を張ります。

監督・脚本・編集・照明:吉田光希

出演:坂本匡在、宮重キヨ子、沢田幸子、野中裕樹

撮影:小島悠介、柏田洋平
音楽:根橋英里、山口 努
助監督:出口 藍
美術:仲 美明
録音:高山陽介
衣装:長谷川愛美
記録:飯塚智香
撮影助手:西坂 悠、大久保桂輔
照明助手:柳田修平、柄沢大二郎
制作進行:岡崎有希子
演出補:池田 将
製作:吉田光希、小島悠介
宣伝協力:ヨアケ
配給・宣伝:リトルモア

67分/デジタル/カラー/ヴィスタサイズ

受賞歴
PFFアワード2008 審査員特別賞受賞
第61回ロカルノ国際映画祭、
第46回ウィーン国際映画祭、
第6回メキシコ市国際近代映画祭、
第11回ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭正式出品