SEIJUN RETURNS in 4K / UHD+Blu-ray BOX (6枚組) / 2024.4.12 (金) RELEASE SEIJUN RETURNS in 4K / 限定版特別大判ポスター / LIMITED EDITION SPECIAL LARGE POSTER

予告編

イントロダクション

鈴木清順監督生誕100年を記念して、〈清順美学〉の頂点であり、日本映画界が誇る世紀の名作『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』『夢二』が4Kデジタル完全修復版で新たに甦る!

没後なお、〈清順美学〉と呼ばれる独自の映像美で、熱烈な支持を得ている映画監督・鈴木清順。その圧倒的評価は日本だけに留まらず、ウォン・カーウァイ、ジム・ジャームッシュ、クエンティン・タランティーノ、デイミアン・チャゼルなど多くの映画人からリスペクトを得ています。その監督作品の中でも『ツィゴイネルワイゼン』、『陽炎座』、『夢二』の三作品は【浪漫三部作】と呼ばれ、その絢爛たる映画術の成熟が頂点を極めた代表作として知られており、日本映画界が誇る最高傑作と言っても過言ではありません。

この度鈴木清順監督の生誕100年を記念して【浪漫三部作】の4Kデジタル完全修復版を制作し、特集上映「SEIJUN RETURNS in 4K」を開催いたします。世界中の映画作家たちのインスピレーションの源となった傑作群を、ぜひスクリーンで体感してください。

世界に誇るレストア技術結集!

『ツィゴイネルワイゼン』を撮影技師の志賀葉一氏(『ツィゴイネルワイゼン』撮影助手)と藤澤順一氏が、『陽炎座』『夢二』を藤澤順一氏(『夢二』撮影技師、『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』撮影助手)が監修、2022年にヴェネチア国際映画祭クラシック部門にて最優秀賞を受賞した『殺しの烙印』4Kデジタル版のレストレーション作業を担当したIMAGICAエンタテインメントメディアサービスの全面協力のもとに完全復元。元々のフィルムが持っていたポテンシャルを最大限に引き出し、以前は見えなかった衣装の質感や髪の毛一本一本、肌の細かな部分までも拾い上げ「いちばん最初に完成したときの形」を忠実に再現しました。

鈴木清順

1923年5月24日、東京日本橋生まれ。本名は清太郎。

43年に学徒出陣により応召。復員後の48年、旧制弘前高等学校卒業、松竹大船撮影所の助監督試験に合格。同期に松山善三・井上和男・斎藤武市・中平康などがいる。

54年、製作再開した日活に移籍し滝沢英輔・山村聰・佐伯清に就いたのち、野口博志に師事する。56年、本名で『港の乾杯 勝利をわが手に』で監督デビュー。

58年に鈴木清順と改名。プログラム・ピクチュアの巧い作り手として評価され、以後名作・快作・佳作を連打する。

67年に発表した40本目の作品『殺しの烙印』が当時の日活・堀久作社長の逆鱗に触れ、翌年4月日活から一方的に専属契約を打ち切られる。同時期、シネクラブ研究会が清順作品の上映を計画するも、堀社長はプリント貸出を拒否。それによって映画関係者やジャーナリズムを巻き込んだ「鈴木清順問題共闘会議」が発足(71年12月に和解)。

この間、70年にフジテレビ「恐怖劇場アンバランス」の一環として監督した「木乃伊の恋」(放映は73年)やCMの演出、シナリオなどを執筆。77年『悲愁物語』で劇場用映画に復帰。

80年に発表した『ツィゴイネルワイゼン』、続く『陽炎座』(81)、『夢二』(91)の三作が“浪漫三部作”として国内外で評価される。また「日本映画監督協会俳優部」を自称し、俳優としてテレビドラマ「ムー一族」「美少女仮面ポワトリン」や、映画『ヒポクラテスたち』『不夜城』など多数出演する。

01年『殺しの烙印』を自らリメイクした『ピストルオペラ』。05年、長年温めてきた企画『オペレッタ狸御殿』をチャン・ツィイー、オダギリジョ-主演で発表し、カンヌ国際映画祭・栄誉上映特別招待作品として招待された。2017年2月13日、都内にて逝去。

81年芸術選奨文部大臣賞、90年紫綬褒章、96年勲四等旭日小綬章。06年に第24回川喜多賞受賞。

ツィゴイネルワイゼン

原田芳雄を主演に迎え、現実と幻想が交錯した
極彩色溢れる〈清順美学〉の代表作。
【浪漫三部作】誕生の一篇。

士官学校教授の青地(藤田敏八)と無頼の友人・中砂(原田芳雄)を中心に、青地の妻周子(大楠道代)、中砂の妻と後妻(大谷直子の二役)をめぐる幻想譚が、妖しくも美しく描かれる本作。内田百閒(うちだひゃっけん)の「サラサーテの盤」ほかいくつかの短篇小説を、生と死、時間と空間、現実と幻想のなかを彷徨う物語として田中陽造が見事に脚色。1980年、東京タワーの足下に設営されたドーム型移動映画館シネマ・プラセットの初製作・上映作品として、単館上映としては異例の約10万人の動員を記録。第31回ベルリン国際映画祭審査員特別賞をはじめ、第4回日本アカデミー賞最優秀作品賞、1980年度 キネマ旬報ベストテン日本映画第1位など、国内の映画賞を独占した。

  • 出演:原田芳雄、大谷直子、藤田敏八、大楠道代、麿赤兒、樹木希林、真喜志きさ子
  • 監督:鈴木清順 原作:内田百閒 脚本:田中陽造 撮影:永塚一栄 照明:大西美津男 美術:木村威夫、多田佳人 録音:岩田広一 音楽:河内紀 編集:神谷信武 記録:内田絢子 スチール:荒木経惟 製作:荒戸源次郎
  • 1980年/シネマ・プラセット/144分/スタンダード/カラー
  • *1980年度 キネマ旬報ベストテン日本映画第1位
  • *第35回毎日映画コンクール:日本映画優秀賞/脚本賞(田中陽造)/主演女優賞(大谷直子)/助演女優賞(大楠道代)受賞
  • *第31回ベルリン国際映画祭 審査員特別賞
  • *第31回芸術選奨 文部大臣賞(鈴木清順)受賞
  • *第26回キネマ旬報賞:日本映画監督賞(鈴木清順)/脚本賞(田中陽造)/主演女優賞(大谷直子)/助演女優賞(大楠道代)受賞
  • *第23回ブルーリボン賞:監督賞(鈴木清順)/特別賞(シネマ・プラセット=新しい映画製作・上映活動に対して)受賞
  • *第4回日本アカデミー賞:最優秀作品賞/最優秀監督賞(鈴木清順)/最優秀助演女優賞(大楠道代)/最優秀美術賞(木村威夫)/優秀脚本賞(田中陽造)/優秀主演女優賞(大谷直子)/優秀助演男優賞(藤田敏八)/優秀撮影賞(永塚一栄)/優秀照明賞(大西美津男)受賞

陽炎座

美しい女たちの愛と憎しみの渦に引き込まれ翻弄されながら、現世ともあの世ともつかない妖しい世界をさまよい歩く主人公に、鈴木清順の大ファンだったという松田優作を迎えた三部作第二弾。

大正末年の1926年。新派の劇作家・松崎春孤(松田優作)は、落とした付け文が縁で品子(大楠道代)という美しい女に会う。その後三度続いた出会いをパトロンの玉脇(中村嘉葎雄)に話すが、品子と一夜を共にした部屋が、玉脇の邸宅の一室とそっくりなことを発見して…。〈清順美学〉と豪華な俳優陣との邂逅によって、より妖艶に、より耽美な映像世界が繰り広げられている 【浪漫三部作】の第二作。奔放華麗な色彩美と意表をついた映像は「フィルム歌舞伎」とも呼ばれ、驚きとともに大きな喝采を浴びた。美しい女たちの愛と憎しみの渦に翻弄される男を演じた松田優作には、他の出演映画では見ることが出来ない、弱い男ゆえの魅力に満ち溢れている。原作は耽美派的世界の巨匠・泉鏡花の同名小説。『ツィゴイネルワイゼン』に引き続き田中陽造が脚本を担当。

  • 出演:松田優作、大楠道代、中村嘉葎雄、加賀まりこ、原田芳雄、楠田枝里子、大友柳太朗、麿赤兒
  • 監督:鈴木清順 原作:泉鏡花 脚本:田中陽造 撮影:永塚一栄 照明:大西美津男 美術:池谷仙克 録音:橋本文雄 音楽監督:河内紀 編集:鈴木晄 記録:内田絢子 製作:荒戸源次郎
  • 1981年/シネマ・プラセット/139分/スタンダード
  • *1981年度 キネマ旬報ベストテン日本映画第3位
  • *第27回キネマ旬報賞:助演男優賞(中村嘉葎雄)/助演女優賞(加賀まりこ)受賞
  • *第5回日本アカデミー賞:最優秀助演男優賞(中村嘉葎雄)/優秀脚本賞(田中陽造)/優秀助演女優賞(加賀まりこ)/優秀撮影賞(永塚一栄)/優秀照明賞(大西美津男)受賞

夢二

大正浪漫を象徴的に生きた男に想を得て、
清順美学はいよいよここに炸裂!
女たちとの愛憎を漂泊し、詩を画にうたいあげた
画家・竹久夢二を沢田研二が見事に体現。

画家・竹久夢二(沢田研二)は恋人の彦乃(宮崎萬純)と駆け落ちするため、金沢近郊の湖畔へと向かう。だが彦乃は現れず、湖上で夫の死体が浮かび上がるのを待つ女・巴代(毬谷友子)と出会う。逢瀬を重ねる夢二と巴代だったが、巴代の夫・脇屋(原田芳雄)の影が忍び寄り…。芸術家ゆえの苦悩に苛まれながらも、紙風船のごとく軽やかに色香をただよわせる男を『カポネ大いに泣く』につづいて沢田研二が見事に演じる。赤く染まる紅葉の金沢を舞台に、妖艶かつ壮大な幻惑譚が繰り広げられ、【浪漫三部作】の掉尾を華麗に飾る。宝塚歌劇団でトップを極めた毬谷友子が主役級での映画初出演を果たし、『太陽を盗んだ男』の監督ゴジこと長谷川和彦が俳優デビュー、そして坂東玉三郎は初の本格的な「男役」での登場と、清順映画ならではの豪華な顔ぶれがスクリーンを彩り、いよいよ華麗な、目も綾なスペクタクルの花火が打ち上がる!

  • 出演:沢田研二、坂東玉三郎、毬谷友子、宮崎萬純、広田玲央名、大楠道代、原田芳雄、長谷川和彦、麿赤兒
  • 監督:鈴木清順 脚本:田中陽造 撮影:藤澤順一 照明:上田成幸 美術:池谷仙克 録音:橋本文雄 音楽:河内紀、梅林茂 編集:鈴木晄 記録:内田絢子 洋装:永沢陽一 写真:荒木経惟 製作:荒戸源次郎
  • 1991年/荒戸源次郎事務所/128分/ヨーロッパ・ヴィスタ

コメント

清順さんの現場は摩訶不思議で面白かった。
何を言い出すかわからない。
スタッフも役者も混乱の毎日なのだが、17時には必ず終わる。
何もかもが幻のような日々を繰り返し、僕たちはいつの間にか清順さんの夢と現に溺れていく。

――オダギリジョー(俳優)

およそ半世紀前、名画座で出会った『けんかえれじい』。そこから「鈴木清順」を追いかけた。
もう見るものがなくなったとき、新作『ツィゴイネルワイゼン』が誕生した。
銀色のドームの中の夢。あの時の興奮を今でも覚えている。
久々に見た浪漫三部作、まだ夢は続いていた。

――周防正行(映画監督)

学生のとき『ツィゴイネルワイゼン』が怖かった。もはや存在そのものが怖かった。
同級生に誰よりも本気で怖がっている男がいた。怖かったのはそいつの影響もあった。
そいつは怯えながらよくこう言っていた。あるシーンでやばい声がするよ。ダメだよ、って聞こえるんだよ。
ぜひ確かめてみてください。こわ。

――森井勇佑(映画監督)

『陽炎座』で大楠道代さんが
着物を脱ぐシーンが忘れられず、着物を着るようになった。
鈴木清順監督映画に出てくる着物はどれも
「衣装」ではなく物語の一部である。

――安野モヨコ(漫画家)

毒々しくビザールな世界観にひたすら圧倒される三部作。
明治~大正独特の濃厚な気配の中で、大楠道代という極上の妖花が咲き乱れて圧巻だ。
一体誰があの着物のスタイリングをやったのだろうと長年謎だったが、まさか私物だったとは!

――山内マリコ(小説家)

我々観客に染みついた映画的生理のようなものを、何食わぬ顔で脱臼させ逆撫でしてくる、異常な語り口。だがそれは、圧倒的にポップでもある! ゆえに何度も観ても、本気でビックリさせられる……清順映画、これは一体なんなんだ?

――宇多丸(RHYMESTER)

五感を刺激する、美しき日本映画!
瞼をヒクつかせ、喉をゴクンと鳴らし、耳を澄ませて、
私は清順美学にどっぷりと浸かる至福を噛み締めた。

――石川三千花(イラストレーター)

絢爛なこの地獄巡りは観るたびに新しい発見がある。
そうだったのか、ついに分かった!…と、思ったら、やっぱり分からない。
何度観ても飽きない不思議な磁力。ままならない人生から自由になる方法、そのヒントが鈴木清順の世界には隠されているような気がする…。
いやいや、騙されてはいけない、これは罠だ。清順は男と女の「もの作り」の情念の祭りに、その地獄に、僕たちを誘っているのだ。
「夢が現世を替えたんだ。」
いや、行きたくない。いや、もう手遅れか。いや、ずっと観ていたい。

――幾原邦彦(アニメーション監督)

一秒ごとにまるで予想だにしていないことが飄々と起こってしまう鈴木清順の映画世界。
映画との関係が倦怠期になりつつある貴方にこそ、あるいはまだ見ぬ映画の可能性に触れたい若い世代にこそ、出逢ってほしい。
『ツィゴルネルワイゼン』の鮮烈さだけは、どれだけ時が経っても色褪せないだろう。

――児玉美月(映画文筆家)
(敬称略、順不同)

エッセイ

鈴木清順監督 生誕100年に寄せて
轟 夕起夫(映画評論家)

 鈴木清順監督の生誕100年を記念して、『ツィゴイネルワイゼン』(80)、『陽炎座』(81)、『夢二』(91)の傑作3本が一挙、4Kデジタル完全修復版で上映されるわけだが、このリマスターによる清順映画“再吟味”の流れは昨年からあった。というのも日活時代の最後の作品、『殺しの烙印』(67)が4Kデジタルで復元されており、おまけに第79回ベネチア国際映画祭のクラシック部門にて、アジア圏としては初の「最優秀復元映画賞」に輝いているのだ。ちなみに、宍戸錠主演の本作は組織のNo.1の座をかけて殺し屋どもが競り合うノワールなアクション物で、ジム・ジャームッシュが『ゴースト・ドッグ』(99)の中で微笑ましくも大胆な引用を! これはほんの一例、その影響力の強さは海外の他の、数多の名だたる監督たちにも認められる。

 ところで、『殺しの烙印』について「ノワールなアクション物」と記したが、前段に「奇妙キテレツだけれども趣向を凝らし、大きく傾(かぶ)く」とでも付け加えるべきだろう。いわゆる“清順スタイル”や“清順美学”と呼ばれる独特なタッチ。それはジャームッシュがオマージュを捧げたごとく、人を、闇雲に突き動かす。『殺しの烙印』を試写で観た当時の日活・堀久作社長の場合はといえば、激怒した。「再三の注意を聞かず、鈴木はいっそうワケの分からぬ映画を作っている」と断じ、さらには翌68年に解雇処分を下すほどに。とにかく、目にしたら誰もがもはや、平静ではいられなくなってしまうのであった。

 日活での監督デビュー作は、本名の“鈴木清太郎”で発表した歌謡映画『港の乾杯 勝利をわが手に』(56)。競馬の八百長事件に巻き込まれる兄弟の話だったが、いきなり会社には「よく分からない」と苦言を呈された。“鈴木清順”と改名したのは『暗黒街の美女』(58)からで、プログラムピクチャーの担い手ながら与えられた企画、脚本を咀嚼し、使い古された文法を崩す流儀を貫き、カラー作品では斬新な色遣いと独創的なショット、アナーキーなカット繋ぎがますます顕在化、『峠を渡る若い風』(61)や『野獣の青春』(63)といった逸品を生み出していった。特に美術監督の盟友・木村威夫とタッグを組んでの奔放なアプローチは語り草で、小林旭主演の任侠物『関東無宿』(63)のクライマックス、賭場荒らしの男たちを斬り倒すや、背景の襖がパタッと倒れて真っ赤なホリゾントが一面に広がるシークエンスを始め、『肉体の門』(64)、『刺青一代』(65)、『東京流れ者』(66)などで“時空間を操る映画の冒険”を極めていく。

 そんな最中での日活解雇――スクリーンから遠ざかり、約10年もの空白のあと、復帰作となった松竹配給の『悲愁物語』(77)は何のブランクも感じさせぬどころか、むしろ、アヴァンギャルドさに磨きがかかっていた。そして続いて、改めて「清順完全復活!」を印象づけたのが『ツィゴイネルワイゼン』である。SPレコードに耳を傾け、自らバイオリンを弾く作曲者サラサーテの肉声を聴いてしまう2人の男。この冒頭から、聞き取れない言葉という“謎”が提示され、やがて全篇が蠱惑的な謎かけ映画と化す。士官学校独逸(ドイツ)語教授の主人公が劇中たびたび往来する、此岸と彼岸とを結ぶ幽玄なる切通しがキービジュアルとなり、「生きている人は死んでいて、死んだ人こそ生きているような」怪異譚が展開してゆくのだ。日活時代は主にアクション映画を撮ってきたが、元々の文芸志向が解き放たれ、また従来とは違って完全インディペンデント製作体制で臨み、結果、国内の賞のみならずベルリン国際映画祭にて審査員特別賞を獲得したのであった。

 さて、内田百閒の世界の次は泉鏡花へ。同じくスタンダードサイズだが極彩色が満ち溢れ、「清順流フィルム歌舞伎」とも称された『陽炎座』だ。新派の劇作家役の松田優作は長い手足を所在なげにたたみ、美しき妖(あやかし)の女たちに翻弄される。ラビリンス=迷宮の美学は一段と“謎かけ”をディープに突き詰め、現世と冥府、表と裏、あらゆる境界が反転し、背中合わせになり、観る者は平行感覚を失って陶酔とし彷徨い、夢幻の涯てへと拐かされるのだった。画面のサイズがヨーロピアン・ビスタに変わった『夢二』では沢田研二が画家“竹久夢二”に扮し、芸術家ゆえの苦悩に苛まれつつ複数のヒロインとたゆたい、紙風船みたいに軽やかに浮遊してみせる。総じて、生と死が交錯するワンダーランドを構築したこの3本、清順監督自身は個々に独立した作品としていたが、のちに大正を舞台にした「浪漫三部作」と括ることを許容した。脚本は全て田中陽造が書き、役者では原田芳雄と大楠道代が3本通して出演し、キーパーソンに。実は女性映画の名手でもあった清順監督、「確実に“大正期の何か”が僕の血の中には流れています」と語っており、そこには大正モダンとロマンに裏打ちされた生粋の“遊び心”と“リリシズム”が脈打っている。

 そして江戸前の気風――作品を後年に残そうなんて考えない。花火のようにパッと闇に咲き、一度公開したら潔く散って消え去るのが映画なのである、と。だがそのモットーに反して、いや、そんな心意気だからこそ、煌びやかな残像は脳裏に強烈に焼き付き、いつまでも我々を捉えて離しはしないのだった。

上映劇場

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