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プリクル - ミニシアターファンマガジン

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もぞもぞ日記

20090715

7月15日(水) 新宿シネマート
 
『私は猫ストーカー』
 
鈴木卓爾監督の長編第一作! まさにタイトルどおり、主人公のハルは野良猫が好きすぎて、谷中あたりで毎日のように追いかけまわし、猫地図のようなものを描いている。猫のこととなると、どこか怪しい通りすがりの自称坊主にもすいすい付いていってしまうし、きょろきょろと路地を徘徊する彼女の姿勢はだんだん下がっていって、何のためらいもなく地べたに腹ばいになるなど、やや常軌を逸したふるまいを見せる。道端で腹ばいになるハルと一緒にカメラもぐんと下がり、彼女と真っ向対峙したり、主人公同様、野良猫を目の前にほとんどにらめっこ状態だ。
主人公とともに路地裏探索に出るわたしたちは、狭い路地を通り抜けるときのなんとも言えない緊張感や、きょろきょろと視線をはわせ、そこを曲がるか曲がらないか迷うときの一瞬の心のざわめきや、曲がらないと決めて歩きだしたあとも未練がましく横道を眺めてしまうような視線を追体験する。主人公の部屋もアルバイト先の古書店も、路地も、どこも狭いから、ぎゅっと詰まっているような画面の充実ぶりがすごい。一方で時々あらわれる抜けのある風景の心地よさ。
古書店主らしく無口な徳井優が偶然に再会した赤い本を手に、唐突にしゃべりだす。赤い本は手に手に渡ってゆき、それが一つの事件になって、物語が展開していく。あるいは、かつての恋人からハルに届いたりんごの所在なさが登場人物それぞれの心情を写すようでもあり、それが不意にごろごろと転がることでまた物語が動きだす。そうした一つ一つの丁寧な作りがじわりと効く映画だ。
ちなみに鈴木監督の前作の短編「鋼-はがね-」(『コワイ女』所収)は頭にズタ袋をかぶった女がかなり奇妙な傑作だった。こちらも必見です。
(大嶺洋子)
 
私は猫ストーカー
監督 : 鈴木卓爾/原作 : 浅生ハルミン/出演 : 星野真里 、 江口のりこ 、 宮崎将 、 徳井優 、 坂井真紀 /配給:スローラーナー/スタンダード/HD作品/103分/シネマート新宿ほかにて公開中

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