ツィゴイネルワイゼン

むかし、男のかたわらには
そこはかとない
女の匂いがあった。
男にはいろ気があった。

原田芳雄を主演に迎え、現実と幻想が交錯した極彩色溢れる〈清順美学〉の代表的映画。“浪漫三部作”の第一作。
士官学校教授の青地(藤田敏八)と、元同僚で無頼の友人・中砂(原田芳雄)を中心に、青地の妻・周子(大楠道代)、中砂の妻と後妻(大谷直子の二役)がひきおこす幻想譚が、妖しくも美しく描かれる。奇妙な物語に通底してサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」の音色が物悲しく響き、音色のなかに一瞬、微かな声が聞こえてくるが……。
内田百閒の「サラサーテの盤」ほかいくつかの短篇小説を、生と死、時間と空間、現実と幻想のなかを彷徨う物語として田中陽造が見事に脚色。他のスタッフにも清順映画の名作を手掛けてきた清順組の面々が顔を揃えている。1980年、東京タワーの足下に設営されたドーム型移動映画館シネマ・プラセットの初製作・上映作品として、単館上映としては異例の約10万人の動員を記録した。国内外からの評価も高く、その年の主要映画賞を多数獲得した。


Story
士官学校教授の青地豊二郎(藤田敏八)と、元同僚で無頼の友人・中砂(なかさご)糺(原田芳雄)は旅先で、弟の葬式帰りだという芸者・小稲(大谷直子/園と二役)に会う。1年後、結婚したという中砂の家を訪ねた青地は、その妻・園が小稲に瓜二つであることに驚く。二人はすき焼きをつつき酒を酌み交わすが、園はこんにゃくを千切り続ける。食後、書斎でサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」のSP盤を聴く二人。演奏中、サラサーテが何やら呟いているが、何を言っているのかは聞き取れない。
青地が妻・周子(大楠道代)の妹(真喜志きさ子)の見舞いに病院に行くと、義妹は、周子と中砂が一緒に来て、中砂の目に入ったゴミを周子が舌で舐め取ったと言う。
中砂と園のあいだに娘が生まれ、青地の名をとって豊子と名づけられるが、翌年、園はスペイン風邪にかかり幼い豊子を残して死ぬ。新しい乳母ができたという中砂邸を訪ねた青地は、園が赤ん坊を抱いているので驚くが、それは小稲であった。
中砂が死んで数年後、美しい少女に成長した豊子を連れて小稲が青地の家にやってきて、中砂が貸した辞書を返して欲しいという。連日、小稲は青白い顔をして中砂が貸しているものを返してほしいという。そしてサラサーテのレコードを貸してあるはずだから奥様に聞いてほしいと……。

*1980年度 キネマ旬報ベストテン日本映画第1位
*第35回毎日映画コンクール
*日本映画優秀賞/脚本賞(田中陽造)/主演女優賞(大谷直子)/助演女優賞(大楠道代)受賞
*第31回ベルリン国際映画祭 審査員特別表彰
*第31回芸術選奨 文部大臣賞(鈴木清順)受賞
*第26回キネマ旬報賞
日本映画監督賞(鈴木清順)/脚本賞(田中陽造)/主演女優賞(大谷直子)/助演女優賞(大楠道代)受賞
*第23回ブルーリボン賞
監督賞(鈴木清順)/特別賞(シネマ・プラセット=新しい映画製作・上映活動に対して)受賞
*第4回日本アカデミー賞
最優秀作品賞/最優秀監督賞(鈴木清順)/最優秀助演女優賞(大楠道代)/最優秀美術賞(木村威夫)/優秀脚本賞(田中陽造)/優秀主演女優賞(大谷直子)/優秀主演男優賞(藤田敏八)/優秀撮影賞(永塚一栄)/優秀照明賞(大西美津男)受賞

出演/原田芳雄、大谷直子、藤田敏八、大楠道代、真喜志きさ子、麿赤児、樹木希林

監督/鈴木清順
原作/内田百閒 脚本/田中陽造 撮影/永塚一栄 照明/大西美津男
美術/木村威夫、多田佳人 録音/岩田広一 音楽/河内紀 編集/神谷信武
記録/内田絢子 スチール/荒木経惟 製作/荒戸源次郎
1980年/シネマ・プラセット/144分/スタンダード